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富山家庭裁判所礪波支部 昭和51年(家)426号 審判 1979年3月22日

主文

1  被相続人井口さよの遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙現金貯金目録記載の現金のうち三、九九二円および別紙動産目録五、九、一〇、一四ないし一六、一八、一九、二七記載の各物件は、申立人の取得とする。

(2)  別紙現金貯金目録記載の現金のうち金三、一九四円は、相手方時田あきの取得とする。

(3)  別紙不動産目録(三)記載の各不動産、別紙現金貯金目録記載の現金のうち金七九八円、農協貯金四万七、七七八円および別紙動産目録一ないし四、六ないし八、一一ないし一三、一七、二〇ないし二六記載の各物件は、いずれも相手方井口弘友の取得とする。

2  相手方時田あきは相手方井口弘友に対し、別紙不動産目録(三)2記載の不動産につき、遺産分割を原因として持分一〇分の四の所有権移転登記手続をせよ。

3  相手方時田あきは申立人に対し金三四万六、七九〇円を支払え。

4  相手方井口弘友は申立人に対し、別紙動産目録五、九、一〇、一四ないし一六、一八、一九、二七記載の各物件を引渡し、かつ金四二万五、六八三円を支払え。

5  申立人は相手方井口弘友に対し、別紙不動産目録(三)記載の各不動産につき遺産分割を原因として持分二分の一の所有権移転登記手続をせよ。

6  本件手続費用のうち、鑑定人○○○○○に支給した金一、五〇〇円同○○○○に支給した金一万六、〇〇〇円、同○○○○に支給した金五万円、同○○○○に支給した金三万円の合計九万七、五〇〇円はこれを一〇分し、その五を申立人が、その三を相手方井口弘友が、その余を相手方時田あきがそれぞれ負担し、その余の費用は、いずれも支出した者の負担とする。

理由

以下の事実は、特に付加したほか、本件記録および名古屋高等裁判所金沢支部昭和五〇年(ラ)第一号遺産分割審判に対する抗告事件、同支部昭和三五年(ラ)第四〇号遺産分割審判に対する抗告事件、当庁昭和三四年(家)第五九三号遺産分割審判申立事件、昭和三四年(家イ)第九号遺産分割調停申立事件の各記録および本件において収集された各証拠資料により認定したものである。

第一、本件の経過

申立人は、昭和三四年三月一三日当庁に対し相手方時田あき(以下、単に相手方あきという。)、申立外百田良子を相手方として被相続人井口さよ(昭和三三年一一月一七日死亡)の遺産につき遺産分割の調停を申立てた。右調停は昭和三四年七月九日不調に終り、同日審判に移行し昭和三五年七月一一日本件遺産の一部について遺産分割の審判がなされ(上記審判は相手方から抗告の申立がなされたが、昭和三七年六月二五日抗告審における抗告棄却の決定により確定した。)、残部について引続き審理中のところ、昭和三七年一〇月二五日職権で調停に付されたが結局当事者間に合意成立の見込がなかつたため、これも昭和四七年二月九日不調に終り、再び審判に移行し、昭和四九年一二月二四日残部について審判がなされた。しかし、これに対し昭和五〇年一月九日今度は申立人より即時抗告の申立てがあり、これにつき昭和五一年九月一四日名古屋高等裁判所金沢支部において原審判を取消し、本件を富山地方裁判所砺波支部に差戻す旨の決定がなされたため、再び本件が当庁に係属したものである。なお、この間、申立外百田良子は昭和三四年六月三〇日本件遺産に対して有する持分全部を放棄し、また相手方あきは昭和三五年三月二四日自己の相続分の一〇分の二(全体の一〇分の一)を相手方井口弘友(以下、単に相手方弘友という。)に譲渡したため、本件遺産分割の当事者としては申立人、相手方あき、相手方弘友の三名となつた。

第二、当裁判所の判断

一  相続の開始

被相続人井口さよは、昭和三三年一一月一七日高岡市○○町×丁目××番地で死亡し、その相続が開始した。

二  相続人および相続分

被相続人さよの相続人は、もともと長女薫の代襲相続人相手方あき申立外田中由美子同山田正一、二男の申立外井口正義、三男の申立人、二女の申立外小笠原秋子、四女の申立外百田良子であつたところ相手方あき、申立人、申立外百田良子を除くその余の相続人らはいずれも相続放棄したため、上記三名の者が相続分各三分の一の割合で相続することとなつたが、上記のとおり申立外百田良子は昭和三四年六月三〇日本件遺産に対する持分全部を放棄し、さらに相手方あきは昭和三五年三月二四日自己の相続分の一〇分の二(全体の一〇分の一)を相手方弘友に譲渡したため、本件遺産分割の当事者は申立人、相手方あき、相手方弘友ということになり、その各人の相続分割合は申立人が一〇分の五、相手方あきが一〇分の四、相手方弘友が一〇分の一ということになつた。(昭和四九年一二月二四日なされた本件審判においては、相手方あきが相手方弘友に譲渡した相続分は、その相続分の一〇分の一(全体の二〇分の一)であるとしているが、各不動産登記簿謄本および相手方ら審問の結果によれば、相手方弘友の譲受分は全体の一〇分の一(相手方あきの相続分の一〇分の二)であると認められる。)

なお、これとは別に、相手方あきは特定遺産に対する持分権の譲渡として相手方弘友に対し、別紙不動産目録(一)の三五の建物(同目録(三)3の建物)については昭和三九年三月三〇日その物件に対する自己の持分全部を、また同目録(一)の三二ないし三四の土地(後記のとおり、後に換地処分により同目録(三)の1の土地となる。)については、同日これに対する自己の持分の四分の一(全体の一〇分の一)を、昭和四二年八月八日これに対する自己の持分の残り全部(全体の一〇分の三)をそれぞれ贈与し、その旨の移転登記手続を了している。したがつて上記物件に限り、申立人と相手方弘友とが、それぞれ二分の一の割合で共有していることになる。

三  遺産の範囲

(一)  不動産

相続開始当時の被相続人所有の不動産は、別紙不動産目録(一)記載のとおりであつたが、このうち一ないし二九の土地については、上述のとおり既に一部遺産分割の審判がたされ、一ないし一〇の土地は申立人の、一一ないし二九の土地は相手方あきの、各所有となつた。しかして、その後本件土地一帯は井波町○○土地改良区が行なう土地改良事業施行地域にかかり、上記各土地はそれぞれ別紙不動産目録(二)記載のとおり、換地処分が行なわれ、もしくは換地の定められない土地が生じた。

したがつて、今回の遺産分割の対象不動産は、別紙不動産目録(三)記載のとおりということになる。

(二)  現金および貯金

1 別紙不動産目録(一)の三一記載の土地は、同目録(二)の一一記載のとおり、換地が定められなかつたことにより、金七、九八四円の精算金が支払われているが、これは遺産の代償物として遺産分割の対象となると解すべきである。

2 井波町○○農業協同組合には相続開始当時被相続人名義の貯金九万五、五五六円が存在したが、事実調査の結果によれば、右貯金の実質的帰属者は被相続人と相手方弘友の父井口正義であり、両名の共有に属するものと認められ、したがつて、本件遺産はその二分の一にあたる金四万七、七七八円ということになる。

(三)  動産

被相続人所有の動産は、相続開始後一部紛失したものもあり、現在は別紙動産目録記載のとおりである。

(四)  有価証券

このほか、被相続人は、相続開始当時○○電力株式会社の株式二二株を有していたところ、昭和三六年一月一七日株主たる地位を喪失したが、その処分状況が明確でないので、上記株式については遺産分割の対象としない。

(五)  以上のとおり、結局今回遺産分割の対象となるべき遺産は、別紙不動産目録(三)記載の不動産、現金貯金目録記載の現金、貯金、動産目録記載の動産ということになる。

四  遺産管理の費用ならびに遺産による収益

(一)  一部分割審判までに生じた収益および管理費用

別紙不動産目録(一)記載の各不動産から生じた収益および管理費用は、昭和三四年および昭和三五年度分について、ほぼ見合うものであると認められるから、この点については本件遺産分割にあたつて特に考慮しないこととする。

(二)  未分割の宅地、建物の収益と管理費用

1 別紙不動産目録(一)の三二ないし三五(換地処分後は同目録(三)の1、3)の土地建物を賃借した場合の賃料は、鑑定人○○○○の審問の結果ならびに鑑定人○○○○の鑑定の結果を総合し、年間約一万二、〇〇〇円をもつて相当と認める。

2 上記物件中、建物は建築後一〇〇年以上経つていて老朽化はげしく、その管理にも相当の費用がかかるものと認められ、井口正義作成の年間経費計算書等によれば、少くとも年間一〇万円は建物の維持管理に必要な費用と認められる。

3 したがつて、昭和三六年度以降の上記建物の年間管理費用は、上記一〇万円から賃料相当額一万二、〇〇〇円を控除した残額八万八、〇〇〇円であり、昭和三六年から昭和五三年度までの管理費用は八万八、〇〇〇円×一八=一五八万四、〇〇〇円となる。遺産の評価にあたつては、上記金額を遺産から控除して算定すべきである。

五  遺産の評価

(一)  本件遺産分割にあたり、まず、各人の具体的相続分を算出する必要があるが、その場合、すでに一部遺産分割ずみの遺産も現時点で評価し、これをも含めて遺産全体の価額を定めたうえ、今回の遺産分割における各人の具体的取得分を算出することが公平にかなうものと考えられる。

(二)  しかして、遺産の評価については、分割審判に最も近接した時点での鑑定評価額によるべく、本件では不動産につき鑑定人○○○○の、動産につき鑑定人○○○○の各鑑定の結果を採用するのが相当である。これによる鑑定評価額は、以下に補足するほか別紙不動産目録(二)および動産目録に各記載したとおりである。

1 不動産目録(三)の3記載の建物二五五万円

2 不動産目録(二)の7の土地、鑑定評価額によると一一六万八、〇〇〇円であるが、同目録に記載のとおり上記土地の従前の土地には、遺産に属さない相続人弘友固有の土地(同所九九九番)が含まれている。したがつて、本件遺産の評価としては、上記評価額から九九九番の土地部分を差引く必要があり、その算出は次の計算方法を採用した。

不動産目録(二)の7の土地の従前の土地の総面積 1,098m2

相続人弘友所有の999番地の土地面積 115m2

116万8,000×(1,098-115)/1,098=104万5,668(円)

(三)  よつて遺産の総額は次のとおり二、二四〇万八、九三〇円となる。

1 不動産合計 二、二〇五万九、一六八円

2 現金          七、九八四円

3 貯金        四万七、七七八円

4 動産合計     二九万四、〇〇〇円

合計      二、二四〇万八、九三〇円

六  各人の具体的取得分

(一)  遺産総額より管理費用を控除すれば、二、〇八二万四、九三〇円となる。

2,240万8,930円-158万4,000円=2,082万4,930円

(二)  したがつて、各人の法定相続分は次のとおりである。

申立人  2,082万4,930円×5/10=1,041万2,465円

相手方あき  〃    ×4/10= 832万9,972円

相手方弘友  〃    ×1/10= 208万2,493円

(三)  しかして、上記のとおり相手方あきは、別紙不動産目録(三)の1の土地(三七九万一、〇〇〇円)および同目録(三)の3の建物(二五五万円)に対する自己の持分一〇分の四を相手方弘友に贈与しているから、この点を考慮した各人の共有持分は、次のとおりになる。

申立人                1,041万2,465円

相手方あき 832万9,972円-253万6,400円=579万3,572円

相手方弘友 208万2,493円+253万6,400円=461万8,893円

(379万1,000円+255万円)×4/10=253万6,400円

(四)  次の前記一部の遺産分割によつて、取得ずみの分と上記共有持分との差額を計算すると次のとおりである。

(一部分割による取得額) (上記共有持分との差額)

申立人   953万6,000円    87万6,465円

相手方あき 613万7,168円   -34万3,596円

相手方弘友 なし           461万8,893円

(五)  よつて今回の遺産分割による各人の具体的取得分は次のとおりである。

申立人      87万6,465円

相手方あき    34万3,596円  超過している。

相手方弘友   461万8,893円

七  各相続人の具体的事情

(一)  申立人は大学卒業後、一時商事会社に勤務したが、その後現役入隊し、昭和二一年に復員した。復員後兄正義(相手方弘友の父)とメリヤス関係の事業経営に参加したが、経営不振となり、その後紡績会社を設立したり、保険代理業を営んだりしていた。

その間は、妻子とともに神奈川県藤沢市に居住していたが、昭和三五年四月に肩書住所地に居を移し、一部分割された田を耕作している。本件遺産分割については、不動産、動産とも現物分割を強く希望している。

(二)  相手方あきは被相続人の長女薫の子で本件遺産たる家屋で出生し昭和二〇年に時田春夫と婚姻し、二児をもうけた。婚家は農業を営んでいる。本件遺産分割に関しては、相手方弘友に現物を取得させることを希望し、既に、一部分割により相手方あき名義となつた別紙不動産目録(一)の一一ないし二九の土地については、その後いずれも相手方弘友にこれを譲渡している。

(三)  相手方弘友は、被相続人の二男井口正義の長男であり、本件遺産たる家屋で出生し、生育し、被相続人や母秋代らとともに永らく本件遺産たる農地の耕作に従事し、建物の管理をしてきた。

本件遺産分割については、不動産、動産ともすべて現物で取得することを希望している。

八  分割方法

(一)  本件遺産のうち別紙不動産目録(三)3記載の建物(評価額二五五万円)は、相手方弘友がここで出生し、その後現在までここに居住し、その家族の生活の基礎をなしているものであるから、相手方弘友に取得させるのが相当であり、また、同目録(三)1、2の土地(評価額合計三八三万六、〇〇〇円)は上記建物の敷地およびそれに連らなる土地として一括利用されているから、これも相手方弘友に取得させることとする。

(二)  別紙現金預金目録一記載の現金七、九八四円は、井波町○○土地改良区の回答書によれば、昭和五二年五月九日同改良区より申立人にその持分一〇分の五の割合による三、九九二円、相手方井口弘友にその持分一〇分の一の割合による七九八円、相手方時田あきにその持分一〇分の四の割合による三、一九四円がそれぞれ支払われているとのことであるから、上記現金は、上記配分のとおり、それぞれが取得するもとする。

(三)  同目録2記載の農協貯金四万七、七七八円については、その後同貯金口座が、相手方弘友名義に切り替えられており、取引も継続的に行われているので、相手方弘友に取得させるものとする。

(四)  別紙動産目録記載の動産については、申立人、相手方弘友双方がその取得を希望しているが、現に相手方弘友方で使用中のものもあることでもあり、諸般の事情を考慮して、同目録一ないし四、六ないし八、一一ないし一三、一七、二〇ないし二六の物件(評価額合計一九万四、〇〇〇円)を相手方弘友に、同目録五、九、一〇、一四ないし一六、一八、一九、二七の物件(評価額合計一〇万円)を申立人に、それぞれ取得させることとする。

九  以上の結果を整理すると、次のとおりとなる。

申立人は、今回の遺産分割により八七万六、四六五円取得すべきところ、上記のとおり現金三、九九二円と動産(評価額合計一〇万円)の合計一〇万三、九九二円を取得することになるから、残金七七万二、四七三円が不足することになる。

相手方あきは、すでにその取得分を三四万三、五九六円超過しているが今回さらに現金三、一九四円取得するから、取得超過分は三四万六、七九〇円となる。

相手方弘友は四六一万八、八九三円取得すべきところ、上記のとおり不動産(評価額合計六三八万六、〇〇〇円)、現金七九八円、貯金四万七、七七八円および動産(評価額合計一九万四、〇〇〇)の合計六六二万八、五七六円相当を取得することになるから、これから前記管理費用一五八万四、〇〇〇円を差引くと五〇四万四、五七六円となり、これと前記本来の取得分四六一万八、八九三円との差額四二万五、六八三円が取得超過分ということになる。

十  結論

以上に従い、上記のとおり本件遺産の取得者を定めることとし、申立人および相手方時田あきは相手方弘友に対して上記不動産の持分につき、それぞれ所有権移転登記手続をなすべく、また相手方あきは申立人に対して超過分金三四万六、七九〇円の支払を、相手方弘友は申立人に対して超過分金四二万五、六八三円の支払と申立人の取得した各動産の引渡をそれぞれなすべきである。

また、手続費用については、主文第六項のとおり定めることとする。

よつて主文のとおり審判する。

別紙目録<省略>

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